◎民間からのアイディアで年1000万円の収入が実現!!
◎全国初、民間提案型ネーミングライツ
◎横浜市の「俣野公園・横浜薬大スタジアム」
◎学校運営と地域貢献がマッチした

平成18年に新設された学校法人都築第一学園 横浜薬科大学(横浜市戸塚区俣野町※1)は、地域との関係強化を模索していた。横浜市共創推進事業本部は20年6月から、民間相談窓口「共創フロント」をはじめ、民間からの自由な事業提案を受ける体制を整備。その中で特にネーミングライツに関して、全国で初めてとなる提案型ネーミングライツ(命名権※2)の手続きを含む「横浜市ネーミングライツ導入に関するガイドライン」を策定し、それに基づき募集をスタートした。大学は隣接する俣野公園にある野球場(俣野公園野球場:20年4月開場)を対象に、「地域貢献」をテーマとした提案を行い、その結果、市との契約が実現した。条件は、命名権などの対価が年額1000万円、期間は平成21年8月から31年7月末までの10年間。従来のネーミングライツは、行政が対象・金額・期間など、いわゆる仕様を決めて公募していたのに対し、横浜市の提案型は民間の自由度が発揮できたものだった。全国初の提案型ネーミングライツとはどんなものか、見てみたい。

 横浜市の提案型ネーミングライツに提案、「俣野公園・横浜薬大スタジアム(略称:ハマヤクスタジアム)」という命名権を得た横浜薬大は、十分な効果を得つつあるという。
 同大執行役員の都築繁利氏は「18年に開学したばかりの当大学は、横浜市・神奈川県との地元密着が学校経営上の大きなテーマ。事実、現在就学中の学生の半分が同市や同県の出身者で構成される。地元の子供を受け入れ、地域に貢献する薬剤師を育成・輩出していきたいという思いがある。大学そのものが地元密着、地域貢献を方針としている。受験生を対象としたオープンキャンパスでも、『野球場も大学の施設?』と質問されることが多く、市施設ではあるものの、大学のキャンパスの一部分のように見せられればなどと考えていた。市で全国初の取り組みとして新しく提案型ネーミングライツの募集があることを知り、すぐに相談させていただいた」と目的・経緯について説明する。
具体的な名称について都築氏は「当初、環境への貢献ということも考え、『ハマヤク地球にやさしいスタジアム』を考えていた。ただ地元との協議・対話の中で『俣野』という地名を残してほしいという要望が強く、最終的には今の命名にした。歴史のある(横浜市戸塚区)俣野地区には自治会・町内会などが多く、地域との関係を大切にするという考えを実践した」と地元調整を振り返る。
 年額1000万円の対価や10年間という期間について都築氏は「専門家に試算してもらった結果だった。10年間という期間も、中長期にわたる地元貢献、地域との共生という意識から設定した」と解説する。
ネーミングライツの効果について都築氏は「(スタジアムは)高校野球地区大会で使用されていることで、選手はもとより応援の高校生やその保護者、先生方などへの知名度があがっている。例えば、地元紙の神奈川新聞には、春・夏・秋の大会ごとに必ずスタジアム名が掲載されることで、地元高校の先生方からの反響もあったりするなど、地域への訴求力は高いとみている。また、このスタジアムで神奈川県大会を戦った高校3年生の生徒が、この秋推薦入試で受験、合格して、夢を実現した子どももいる」と述べ、具体的に効果があったことを指摘する。
最後に都築氏は「共創推進事業本部がなければ今回のネーミングライツは実現しなかった。本部職員の方の丁寧なアドバイスもあり、全国初の事例が成功できた」と評価する。

◎横浜市の実績は5件○
◎「三方よし」のネーミングライツ○

 横浜市のネーミングライツは17年3月の「日産スタジアム」を第1号に5件の実績を持つ(※2)。20年10月に制定されたガイドラインの中で、従来から実施されている施設特定募集型のほかに、提案募集型が規定された。
ガイドラインでは、大きく「財源確保」「地域活性化」の2つを目的に挙げている。
対象施設は、スポーツ施設、文化施設、集会施設、公園など市が有する公共的施設だが、庁舎、学校や、利害関係者が多い施設(寄贈品の多い資料館など)は難しいとしている。
対価の考え方について、共創推進課は「(ネーミングライツの対価を)算定する絶対的な基準や相場はなく、各企業が持つ戦略や目的によって、ネーミングライツの価値は大きく違ってくる。例えば、横浜に進出したい企業にとって、横浜でやるネーミングライツは大きな価値を持つ可能性もあるが、そうではない企業にとっては価値を見出しづらいこともある。ただ契約者である市としてもネーミングライツ導入による効果をきちんと説明する必要があるため、例えば、施設の維持管理費を基準として、(民間が示した)対価を評価するといったことがある」と説明する。
また、これまでの経緯については「従来の施設特定募集型の実績は、17年の日産スタジアムと、ニッパツ三ツ沢球技場、はまぎんこども宇宙科学館の3件。ただ、このやり方については不景気もあり全国的に売り切れないという事例も増えてきた。いかにより良く進めるべきかという模索をする中、『共創フロント』が始まり、民間からの提案を活かすスタイルである提案募集型を始めるに至った」と振り返る。
提案募集型の良さについては「民間・企業が何に対して興味があるのか、行政が事前に把握することは難しい。結果的に、民間の自由なアイディアにより、行政の思いもよらないものが出てくる。従来の施設特定募集型では、売り物になりそうな比較的大きな公共施設を対象としてきたが、提案募集型では地域の比較的小さな施設も対象に挙がってきており、内容も金銭だけでなく施設維持や地域貢献に関して、企業の特性を活かした取り組みなども提案として挙がってくるようになった。」とメリット・特徴にふれる。
市では今後の課題について「インフラも含めた公共施設の維持管理はどこの自治体にとっても大きな課題になっているが、ネーミングライツはそれに対する一つの対応策と考えている。ただ制度自体がまだよく知られていない面もあるので、もっと庁内外に対してPRが必要。企業のメリット、行政のメリット、そして市民のメリットがバランス良く組み合う、持続性のある制度として効果は大きいと考えているので、多くの企業から様々な提案がいただけるよう、今後も積極的に取り組んでいきたい。」と締めくくった。

※1 横浜薬科大学=18年4月開学。6年制の薬学専門の私立大学。設置者は学校法人都築第一学園。
※2 ネーミングライツ=民間企業などと契約し、公共施設などの愛称を付与させる(命名権の付与)代わりに、民間から対価を得るなど、施設の運営などに資するようなPPP手法の1つ。
横浜市では、平成17年3月に「日産スタジアム」(正式名称・横浜国際総合競技場)で初めて導入、それ以降「ニッパツ三ツ沢球技場」(同・三ツ沢公園球技場)、「はまぎんこども宇宙科学館」(同・横浜こども科学館)、「俣野公園・横浜薬大スタジアム」(同・俣野公園野球場)、「ベイクォーターウォーク」(同・市道高島台第171号線)(最後の2件は民間が対象施設などを自由に提案できる提案募集型ネーミングライツ)の合計5件の実績がある。