IC乗車券をアジア展開 まずベトナムに20万枚

政府、ODAで後押し

 政府はICカードを使った公共交通機関の運賃支払いシステムのアジア向け輸出を始める。政府開発援助(ODA)を活用し、まず5月からベトナム・ハノイ市で路線バスの利用者向けに20万枚を無償で配り、機器も置く。アジアでは人口増に伴って交通インフラの整備が進んでおり、ICカードの需要拡大が見込める。欧米勢が主導する方式が広がるなかで、日本方式の普及を後押しする。

 ベトナムに導入するのはソニーが手掛ける非接触ICカード技術「フェリカ」。東日本旅客鉄道(JR東日本)のスイカなど日本の商用カードのほとんどに使われているのと同じタイプだ。

 国際協力機構(JICA)がソニーやNTTデータの現地法人、大日本印刷などと連携する。5月から現地でカードの生産を始め、料金徴収システムや読み取り機も設置していく。事業費は約1億円を見込み、政府がODAで全額を負担する。

 ベトナムでは6月をメドにハノイ市を南北に通る約30キロメートルの路線を走るバス26台で使えるようにする。まずは1カ月単位のIC定期券を普及させる。現地の乗客に浸透してきたら、事前に現金をチャージして乗車するたびに運賃を支払うプリペイド方式も導入する。建設中の鉄道との相互利用も視野に入れる。

 約650万人の人口を抱えるハノイ市はバイクや自動車の急増で交通渋滞が慢性化し、バスや都市鉄道など公共交通網の整備が急務だ。

 市内を走るバスは約80路線と直近10年で3倍弱に増えたが、将来はバス高速輸送システム(BRT)などの建設も計画している。都市鉄道も日本やフランス、中国などの支援を受け、1~6号線の建設計画がある。ICカードの需要はさらに強まる可能性が高い。

 ほかのアジアの新興国でも新たな交通インフラの整備計画を抱えるところが多く、ICカードの普及余地も大きい。日本政府は次のターゲットとしてタイやインド、中国での売り込みも狙う。

 公共交通のICカードは世界で複数の仕様がある。日本方式は内蔵のICチップの性能が高く、支払時に読み取り機にかざす時間が短い。記録できる情報量も多く、乗り換えにも対応しやすい。海外ではオランダのフィリップスなどの欧米勢がつくった「タイプA」と呼ぶ規格が主流。機能は日本方式に劣るものの安価なのが特徴で、アジアでも普及しつつある。

 日本方式は既にシンガポールや香港、バングラデシュなどでは導入済みだが、欧米方式との互換性はない。いちどアジアで欧米方式が全面的に導入されると巻き返しが難しくなる。一段の普及には、ODAを活用して地元側の初期投資の負担を軽くする形で、政府が強力に後押しする必要があると判断した。

 日本方式がアジアで普及すれば、日本人が海外旅行の際に移動したり買い物したりするのも便利になる。鉄道やバスの車両や自動販売機などICカード対応型の製品の需要も高まる。政府は2020年までにインフラ輸出を3倍の30兆円に増やす目標を掲げる。ICカードの普及で輸出に弾みをつける考えだ。

(日本経済新聞 2014年01月28日より)